(※蝋板に、ラテン語で乱雑に刻まれた文字の翻訳)
また揺れた。今月に入って、もう何度目だ? 店先の棚から、焼き上がったばかりのパンが一つ、床に落ちてしまった。粉まみれだ。 奴隷のマルクスに掃除を命じたが、あいつも怯えた目で空ばかり見ている。
このところ、どうも空気がおかしい。 井戸の水は濁り、飼っている犬が、客が来てもないのにやたらと吠える。 昨夜は、ヴェスヴィウス(※ポンペイの背後にそびえる山の名)の山頂が、奇妙に明るかったと妻が言っていた。
明日の「ガルム(※魚醤)」の仕入れは大丈夫だろうか。 明後日のネロニウス様の別荘への納品は、間に合うだろうか。 娘のユリアが、最近どうも咳き込んでいるのが気がかりだ。
今日は早めに店を閉めよう。 ラレース(※家の守り神)の祠に、ワインと、今日失敗したパンを捧げなくては。 神々よ、どうか、この小さな揺れが収まりますように。 どうか、私たち家族の平穏な日常が、明日も続きますように。
(ルキウス / パン屋)



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