突然ですが、皆さんの周りに「俺、2000歳なんだよね」とか「昨日、アレキサンダー大王と飲んでさぁ」とか言う人、いますか?
…いませんよね。いたら病院を勧めます。
でも、18世紀のヨーロッパには、そんなトンデモ発言を繰り返しながら、フランス国王ルイ15世やその愛人ポンパドゥール夫人といった超VIPたちを骨抜きにし、宮殿の奥深くまで入り込んだ男がいました。
その名も、サンジェルマン伯爵(Comte de Saint-Germain)。

出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Count-of-Saint-Germain.jpg
See page for author, Public domain, via Wikimedia Commons
彼にまつわる一般的なイメージは、まさに「歩くミステリー」。
- 不老不死(自称300歳、あるいは4000歳)
- 超マルチリンガル(ヨーロッパ中の言語を完璧に操る)
- 天才錬金術師(宝石の傷を消し、ダイヤモンドを巨大化させる)
- プロの音楽家(作曲したヴァイオリンソナタが現代でも演奏されている)
- 神出鬼没(ヨーロッパ中の宮廷に突如現れ、突如消える)
- そして、正体不明(本名、出身地、生没年、すべてが謎)
いや、スペック盛りすぎでは?? もはやラノベの主人公か、ラスボスです。
しかし、です。
もし、この「完璧超人」のメッキを剥がしたら、一体何が出てくるのか。 「スゴイ人」と「ヤバイ人」は紙一重。
彼の場合、その両方を限界突破していたフシがあるのです。
今回は、この「サンジェルマン伯爵」の輝かしい伝説と、同時代を生きた大物たちによる辛辣な評価を徹底的に掘り下げ、彼の「人間臭さ」…いや、「人間を超越しすぎた胡散臭さ」の正体に迫ってみたいと思います。
👑 功績:彼が「本物」かもしれない3つの理由
彼がただのホラ吹きなら、歴史に名は残りません。
彼がヤバかったのは、「ホラ」のスケールを遥かに超える「ガチの才能」を持っていたことです。
当時のヨーロッパ最高峰の知識人たちが、彼に一目置いていたのは事実なのです。
1. あのルイ15世がガチで惚れ込み、城まで与えた
18世紀半ば、サンジェルマン伯爵はフランス社交界に彗星のごとく現れます。
彼を国王ルイ15世に引き合わせたのは、当時のフランス宮廷を牛耳っていたポンパドゥール夫人。
彼女自身、ヴォルテールら啓蒙思想家のパトロンであり、当代きっての才媛でした。
そんな彼女が紹介しただけあって、伯爵のパフォーマンスは圧巻でした。

左:ルイ15世 右:ポンパデュール夫人(タイピングしづらすぎ)
出典
ルイ15世:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:LouisXV-Rigaud1FXD.jpg
Hyacinthe Rigaud, Public domain, via Wikimedia Commons
ポンパデュール夫人:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Madame_de_Pompadour_1759_-_Fran%C3%A7ois_Boucher.jpg
François Boucher, Public domain, via Wikimedia Commons
彼は、ウィットに富んだ会話、恐ろしく博識な歴史の知識、そして流暢な多言語能力で、退屈しきっていた国王ルイ15世の心を鷲掴みにします。
ルイ15世は彼にぞっこんになり、なんと、あの広大なシャンボール城の一室を彼専用の研究室として与えました。
王はそこで伯爵と二人きりになり、染料の精製や、錬金術(?)の研究に没頭し、長い時間を過ごしたと言われています。
一国の王が、どこの馬の骨とも知れない男に、国宝級の城の一室をホイホイ与える。
それだけ彼の話術と知識が、王にとって魅力的だった証拠です。
2. 「ダイヤモンドの傷、消せますよ」王の宝石で奇跡を起こす
彼の「スゴさ」を象徴する、最も有名な逸話が「ダイヤモンド事件」です。
ある日、ルイ15世は伯爵を試すため、一つのダイヤモンドを見せます。
そのダイヤには「傷(flaw)」があり、価値が6,000フランまで下がっていました。(傷がなければ10,000フランの価値があったとされます)
王:「伯爵、お主ならこの傷、消せるかね?」
伯爵:「(余裕の表情で)可能でございます。1ヶ月ほどお預かりいたします」
そして1ヶ月後。 伯爵が返してきたダイヤモンドを見て、王は絶句します。
傷が、完璧に消えていたのです。
王が(半信半疑で)宮廷の宝石商にこのダイヤを鑑定させたところ、なんと「9,600フラン」の値がついたというのです。
え、マジでどうやったの?
当時、ダイヤモンドの傷を「消す」技術など存在するはずがありません。
多くの歴史家は、「伯爵が自腹でそっくりな別のダイヤ(9,600フラン相当)を買ってきて、すり替えただけ」という説を支持しています。
もしそうだとしたら、彼は王を驚かせるというジョークのために、現在の価値で数千万円(※推定)をポンと出せる「ヤバい金持ち」だったことになります。
…あれ? 錬金術で傷を消すより、そっちの方がスゴくないですか?
3. ヴォルテールが認めた「すべてを知っている男」
彼の才能は、オカルト方面だけではありません。
彼はプロの音楽家でもあり、彼が作曲したヴァイオリンソナタはロンドンで出版され、その楽譜は現代にも残っています。そして、今でもCDが発売され、普通に演奏されているのです。

つまり、彼は「自称〇〇」ではなく、「ガチのプロ」だった訳です。
この多才ぶりに、当時の大哲学者ヴォルテール(あの『社会契約論』のルソーと並ぶ、フランス啓蒙思想の巨人)も一目置かざるを得ませんでした。
ヴォルテールは、プロイセンのフリードリヒ大王に宛てた書簡(1760年)の中で、サンジェルマン伯爵をこう評しています。
「彼は、決して死ぬことがなく、すべてを知っている人物(un homme qui ne meurt point, et qui sait tout)」
哲学者が、こんな中二病みたいな評価を下すとは…。
もちろん、ヴォルテールのことですから、皮肉や冗談めかした可能性も大いにあります。
しかし、ヨーロッパ最高峰の知性が「アイツ、何でも知ってるわ」と(ある種、呆れながらも)言及せずにはいられないほどの「何か」を、伯爵が持っていたことは間違いありません。
🚨 本題:彼が「詐欺師」かもしれない3つの理由
さて、ここまでは「スゴイ人」サンジェルマン伯爵の姿を見てきました。
しかし、ここからが本題です。彼の「功績」が輝けば輝くほど、その「胡散臭さ」も際立ってくるのです。
1. 【証言】「40年ぶりに会ったけど、アイツ老けてない…」
彼の「不老不死」伝説を決定づけた、有名な逸話があります。
それは、ジェルジ伯爵夫人(Madame de Gergy)という貴婦人の証言です。(※後世の創作という説も根強くあります)
彼女は、1710年頃、ヴェネツィア大使の妻として現地に滞在していました。
その時、サンジェルマン伯爵と出会い、親しく交流したといいます。
当時の彼の見た目は「45歳から50歳くらい」だったそうです。
それから約40年後。 パリのポンパドゥール夫人が開いたパーティーで、彼女は「サンジェルマン伯爵」と名乗る男に再会します。
夫人:「(驚愕)…え、あなた、まさか昔ヴェネツィアにいたサンジェルマン氏の…ご子息?」
伯爵:「いいえ、奥様。私自身でございます」
夫人:「嘘でしょ!? 40年経ってるのよ? あなた、今いくつなの!?」
伯爵:「(微笑みながら)私は、とても、とても年寄りでございます」
ジェルジ伯爵夫人が腰を抜かさんばかりに驚いたのも無理はありません。
40年ぶりに会った伯爵は、ヴェネツィアで会った時と寸分違わぬ姿(=40代後半のまま)だったというのです。
いや、怖い怖い怖い。 これが事実なら、彼は人間ではありません。
しかし、もしこれが「作り話」だとしたら…?
2. 【驚愕】サンジェルマン伯爵のトンデモ発言録
彼が本当に「不老不死」だったのか。その答えは、彼自身の発言(と噂されるもの)に隠されています。 彼は、宮廷のサロンで、並外れた話術を駆使して、こんな話を臨場感たっぷりに語っていたと記録されています。
・「いやー、昔アレキサンダー大王と酒を酌み交わしたことがありましてね…」
・「私、イエス・キリストにもお会いしたことがあるんですよ。彼に『あなたは恐ろべき末期を迎えるだろう』と予言されたものです」
・「ああ、『カナの婚礼』(※キリストが水をワインに変えた奇跡の現場)にも出席していましたよ。あの時のワインは格別で…」
・「バビロンの宮廷の陰謀についても、私はこの目で見てきましたから」

……アカン。
完全に一線を越えています。
「40年老けてない」はギリギリ「そういう体質かな?」で済ませられても、「カナの婚礼にいた」はアウトです。完全に「ヤバイ人」です。
彼は、自分が「300歳だ」とか「2000歳だ」と平然と語り、その証拠として古代の出来事を「見てきたかのように」語ったのです。
3. 「詐欺師の王」カサノヴァによる完璧な人物評
では、同時代を生きた人々は、彼のことをどう思っていたのでしょうか。
ここで、歴史上最も有名な「プレイボーイ」であり、「詐欺師」であり、「冒険家」でもあったジャコモ・カサノヴァの証言を見てみましょう。
いわば「詐欺師のプロ」であるカサノヴァは、その著書『我が生涯の物語(カサノヴァ回想録)』の中で、サンジェルマン伯爵に会った時のことを、実に的確に書き残しています。
「この並外れた男、詐欺師と山師の王(the king of impostors and quacks)となるべく自然に意図された男」
「詐欺師の王」。 これ以上ない、辛辣かつ的確なあだ名です。プロがプロを認めた瞬間です。
カサノヴァは続けます。
「彼は平然と、自分は300歳だとか、万能薬の秘密を知っているとか、自然を支配しているとか、ダイヤモンドを溶かせるとか言うだろう。…(中略)…これらすべては彼にとって些細なことだと言った」
やはり、言ってたんですね。「300歳です」って。
カサノヴァは、サンジェルマン伯爵の「錬金術」や「不老不死」の話を、すべて「臆面もない嘘」「奇行」だと完全に見抜いていました。
しかし。 カサノヴァの回想録は、驚くべき言葉で締めくくられています。
「彼の自慢話、臆面もない嘘、そして多くの奇行にもかかわらず、私は彼を不快だとは思わなかった」
…え? あんなに「詐欺師の王」とコケにしていたのに、「でも嫌いじゃなかった」と。
ここに、サンジェルマン伯爵という人間の本質が隠されている気がしませんか?
まとめ:愛すべき「詐欺師の王」
サンジェルマン伯爵。
その正体は、ハンガリー貴族の生き残り説(ラーコーツィ・フェレンツ2世の息子説)など諸説ありますが、結局のところ、何も分かっていません。
彼は「詐欺師(シャルラタン)」だったのでしょうか? おそらく、そうなのでしょう。
しかし、彼はただの詐欺師ではありませんでした。
- 国王ルイ15世を魅了するほどの圧倒的な「話術」と「教養」。
- ヴォルテールが「すべてを知る男」と評したほどの「博識」。
- 現代にも楽譜が残り、演奏されるほどの「音楽の才能」。
- 王のダイヤをすり替える(?)ための「莫大な財力」。
- そして、カサノヴァに「詐欺師の王」と見抜かれながらも「不快ではなかった」と言わしめた、不思議な「人間的魅力」。
彼は、自らの「不老不死」という壮大なホラ話を、その実在する圧倒的な才能と魅力でコーティングし、18世紀のヨーロッパ宮廷という最高の舞台で演じきった、史上最高のエンターテイナーだったのではないでしょうか。

完璧すぎる超人には、私たちは嫉妬しか覚えません。
でも、圧倒的な才能を持ちながら、どこか「カナの婚礼にいた」とか言っちゃう部分(=人間臭い胡散臭さ)があるからこそ、私たちはサンジェルマン伯爵に惹きつけられてしまうのかもしれませんね。
この記事が面白かったら、ぜひSNSでシェアしてもらえると嬉しいです! あなたの知っている「サンジェルマン伯爵のヤバイ伝説」も、ぜひコメントで教えてください。
それではまた、次回の「知らない偉人名鑑」でお会いしましょう。



コメント